社会福祉法人の介護事業承継は、オーナーが保有株式を買い手へ渡す会社売却ではありません。社会福祉法人には株式も、出資割合に応じて法人財産を受け取る持分もないため、後継者問題を解くには、吸収合併、新設合併、対象事業の事業譲渡、法人間連携などから、公益性とサービス継続に適する仕組みを選ぶ必要があります。
しかも、法人制度上の手続だけを終えても介護サービスは引き継げません。理事会・評議員会の意思決定、所轄庁の認可や承認、定款、基本財産、補助対象財産、福祉医療機構や金融機関の借入・担保、職員の雇用、利用者契約、介護保険法上の指定、老人福祉法等の施設手続、会計区分、請求システムを同じ基準日に合わせる必要があります。一つでも条件がずれると、法人上は引継ぎ可能でも指定番号が間に合わない、建物を移せても借入債務が残る、職員の転籍承諾が足りず人員配置が成立しない、といった事態が起こります。
本稿は、社会福祉法人の理事・評議員・施設長、承継候補法人、金融機関、実務支援者が、最初の比較検討からクロージングまでを設計するための一般的な情報です。制度の説明は、厚生労働省が2026年3月31日に改訂した「合併・事業譲渡等マニュアル」と、2026年8月22日時点の法令・行政資料を基準にしています。記事中の法人、地域、施設、人数、金額、日付、工程はすべて架空であり、特定案件の相場、行政判断、成功実績を示すものではありません。
社会福祉法人の介護事業承継で最初に押さえる結論
第一の結論は、売主と買主を探す前に「何を残し、何を誰へ引き継ぐのか」を決めることです。法人そのものを統合し、消滅法人の権利義務を一括して承継するなら合併が候補になります。法人Aを存続させたまま、一部の特別養護老人ホームや在宅事業だけを法人Bへ移すなら事業譲渡が候補です。共同購買、人材育成、災害対応などを一緒にしたいだけであれば、合併や譲渡を急がず、業務提携や社会福祉連携推進法人を検討する余地があります。
第二の結論は、法人制度、財産、事業許認可、契約、雇用を別々の作業表にしながら、最後は一つの基準日に束ねることです。社会福祉法人の合併認可を得ても、介護保険指定や施設設置者に関する手続が自動で完了するとは限りません。反対に、指定申請の準備だけを先に進めても、基本財産の処分承認や借入先の同意が得られなければ、不動産・設備・債務を予定どおり移せません。
第三の結論は、価格より先に公益性と継続可能性を説明できる状態を作ることです。社会福祉法人の財産は、役員や設立者が自由に換金する所有物ではありません。合併については相手法人へ金銭や経済的利益を与えることが想定されず、事業譲渡で対価を設ける場合も、対象事業の価値、帳簿、鑑定、将来収支、補助・借入条件、特別利益供与や法人外流出の防止を踏まえた説明が必要です。単に「赤字だから無償」「急いでいるから簿価」「人気施設だから高額」という一行では、意思決定の合理性を示せません。
第四の結論は、所轄庁への相談を最終書類の提出直前に置かないことです。厚生労働省の2026年改訂マニュアルには、所轄庁ごとに事前相談や追加書類の運用が異なることが示されています。相談時には、確定していない点を隠すより、「合併案と事業譲渡案を比較中」「基本財産と補助対象財産の範囲を調査中」「指定権者との協議日を設定済み」のように、事実、仮説、未解決事項を分けた一枚表を持参する方が、次の調査を具体化できます。
| 最初の問い | 不十分な整理 | 承継設計に使える整理 |
|---|---|---|
| 誰が何を承継するか | 大きい法人に全部任せる | 法人、事業、資産、債務、契約、職員、指定を項目別に示す |
| いくらで承継するか | 簿価またはゼロと先に決める | 合併と事業譲渡を区別し、価値評価と公益性の根拠を保存する |
| 行政手続は何か | 所轄庁の認可だけと考える | 法人、施設、介護指定、補助金、登記等の窓口と期限を分ける |
| いつ発表するか | 契約締結後に一斉発表する | 秘密保持、機関決議、職員承諾、利用者説明の法的・実務的順序を設計する |
法人格・非持分性・公益性・残余財産を一枚で理解する
社会福祉法は、社会福祉法人を社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人と位置付けています。所轄庁の認可を受けて設立され、定款に目的、事業、役員・評議員、資産、会計、解散等を定めます。この法人格が契約を結び、不動産を保有し、職員を雇い、介護サービスを運営します。理事長個人と法人の権利義務は分けなければなりません。
非持分性とは、社員や株主のように純資産を割合で所有する構成員がいないという意味です。寄附をした設立者も、その寄附財産を後から自由に取り戻せません。毎年度の剰余は、定款・法令・会計基準・通知に従い、法人の社会福祉事業等に用います。法人が解散した場合の残余財産も、定款と法令が定める帰属先へ移るのであり、役員間で分配する仕組みではありません。
公益性は「無償でなければならない」という一語には置き換えられません。利用者へ継続的に適切なサービスを提供し、職員の就労を守り、地域の福祉需要に応え、資金・設備を持続可能に管理することが求められます。対価を低くすれば公益的、高くすれば非公益的という単純な関係ではありません。低すぎる対価は譲渡法人の財産を外部へ流出させ、高すぎる対価は譲受法人の財産を毀損し、将来サービスの資金余力を奪う可能性があります。
承継検討では、法人の存続目的と対象事業の存続目的を分けます。法人Aに高齢者福祉、障害福祉、保育の三事業があり、高齢者施設だけに後継課題があるなら、法人Aを消滅させる必要はないかもしれません。反対に、管理本部も含め法人全体の持続可能性が失われ、全事業を別法人の組織・財務基盤へ統合する方が利用者保護に資するなら、吸収合併を比較します。結論は規模の大小ではなく、目的と対象範囲の対応で決めます。
公開情報は入口であり、意思決定の最終資料ではない
厚生労働省の社会福祉法人制度ページから、現況報告書や計算書類等の情報公表制度へたどれます。公開情報で、基本情報、役員、事業、拠点、財務の概況を把握することは有用です。ただし、補助金交付決定書、担保設定、利用者別預り金、未締結契約、職員の個別労働条件、理事会議事録などは公開資料だけでは確定できません。初期仮説とデューデリジェンスの確認事項を区別します。
承継方法の全体像|合併・事業譲渡・役員交代・連携
選択肢を、支配権を取得する会社取引の言葉だけで並べると誤ります。社会福祉法人では、法人格を残すか、法人全体を統合するか、事業だけを移すか、当面は別法人のまま協力するか、という順で比較します。最初から吸収合併一択にすると、不要な財産や債務まで包括承継するリスクを見落とします。事業譲渡一択にすると、数百件の契約・雇用・指定・資産を個別に移す負荷を過小評価します。
役員体制の承継
同じ法人格のまま、定款と法令に従って理事、監事、評議員、理事長等を選任・改選し、運営を次世代へ引き継ぐ方法です。財産や契約の移転を伴わないため、事業譲渡より事務が少ない場合があります。ただし、後継者の適格性、評議員会・理事会の独立性、親族等特殊関係、評議員と役員の兼任禁止、理事長個人への過度な依存を是正しなければ、名義だけの交代になります。
法人間の経営協力・業務提携
共同採用、研修、給食・購買、災害対応、バックオフィス、専門職派遣などを契約で共同化します。法人格、財産、指定、雇用主は原則として各法人に残ります。将来の合併可能性を検証する段階としても使えますが、委託範囲、費用負担、個人情報、責任分界、競争法、再委託、解除後の復旧を決める必要があります。協力契約を結んだだけで、経営責任や介護事業者としての義務が相手法人へ移るわけではありません。
社会福祉連携推進法人
社会福祉連携推進法人制度は、一般社団法人が所轄庁の認定を受け、社員である社会福祉法人等の連携を推進する仕組みです。人材確保、物資供給、経営支援、貸付等、法令上認められた連携業務を検討できます。ただし、構成法人が自動的に一法人へ統合される制度ではありません。各社会福祉法人の理事会・評議員会、財産、雇用、介護指定は別に残ります。
吸収合併・新設合併
合併は社会福祉法人同士で行い、消滅法人の権利義務を存続法人または新設法人が包括承継します。個々の債権・債務を一件ずつ譲渡するのとは法的効果が違います。包括承継は効率をもたらす一方、簿外・偶発的な義務まで含めて引き継ぐ可能性があるため、法人全体のDDが欠かせません。所轄庁の認可、評議員会承認、債権者保護、登記等の法定工程があります。
事業譲渡
事業譲渡は、特定の事業を構成する土地・建物・設備・契約・債権債務等を当事者間で定め、個別に移す方法です。譲渡法人を存続させながら対象範囲を限定できる反面、契約相手、職員、利用者、債権者、行政機関ごとに移転手続が必要になります。厚生労働省マニュアルは、社会福祉法人が行う社会福祉事業の全部を譲渡することはできないと考えられると説明しています。実際の可否は、残す事業、定款目的、譲受主体の資格を含め所轄庁へ早期に確認します。
制度比較表|権利義務・認可・契約・債務・職員・指定
次表は2026年8月22日時点の一般的な比較です。「包括承継だから個別確認不要」「事業譲渡なら負債を一切引き継がない」と短絡しないでください。合併でも契約上の通知・協議条項や許認可手続があり、事業譲渡でも対象事業に必要な債務・契約を引き受けなければ運営できない場合があります。
| 比較項目 | 吸収合併 | 新設合併 | 事業譲渡 | 連携・業務提携 |
|---|---|---|---|---|
| 法人格 | 一方が存続し、他方が消滅 | 当事者が消滅し、新法人を設立 | 譲渡・譲受法人とも原則存続 | 各法人が存続 |
| 相手方 | 社会福祉法人同士 | 社会福祉法人同士 | 対象事業を適法に経営できる法人。第一種社会福祉事業等は主体制限を個別確認 | 契約・制度が許す法人等 |
| 権利義務 | 消滅法人から存続法人へ包括承継 | 消滅法人から新法人へ包括承継 | 契約で定めた範囲を個別承継 | 移転せず、契約範囲で協力 |
| 主な法人手続 | 合併契約、評議員会承認、所轄庁認可、債権者保護、登記、開示 | 合併契約、評議員会承認、定款、所轄庁認可、債権者保護、設立登記、開示 | 理事会・評議員会、定款変更、基本財産等の承認・届出を個別確認 | 機関決議、契約。連携推進法人は認定等の制度手続 |
| 対価 | 合併対価の支払を想定しない | 合併対価の支払を想定しない | 事業価値を評価し、適切な対価を検討 | 委託費・負担金等を契約根拠に設定 |
| 債権者 | 官報公告、判明債権者への催告、2か月以上の異議申述期間 | 官報公告、判明債権者への催告、2か月以上の異議申述期間 | 債務引受、担保変更、契約移転に債権者同意等が必要となり得る | 各法人の債務は残る。保証・共同債務化を安易にしない |
| 職員 | 雇用契約・労働条件を包括承継。変更は別途説明・同意等を検討 | 雇用契約・労働条件を包括承継。新法人で規程統合を設計 | 当然には移らず、職員の真意による転籍承諾と必要な雇用契約 | 雇用主は原則不変。出向・派遣・業務委託の適法性を確認 |
| 利用者契約 | 包括承継。ただし内容・料金変更があれば説明・同意、再契約を検討 | 包括承継。ただし新法人名義の案内・記録整備が必要 | 当然には移らず、説明・承諾と必要な個別契約 | 契約主体は原則不変。共同業務の情報共有根拠を確認 |
| 介護指定 | 法人合併の効果だけで断定せず、指定権者に変更・廃止・新規等を確認 | 新法人が事業者となるため、指定空白を避ける工程を指定権者と確認 | 譲受法人の指定取得等を前提条件化することが多い | 指定事業者は原則各法人のまま |
| 対象範囲 | 法人全体 | 各当事法人の全体 | 資産・債務・契約を選別可能 | 協力業務のみ |
| 主要リスク | 不要資産・偶発債務も含む包括承継 | 新法人設立と全制度移行が同時 | 同意漏れ、指定・契約・雇用の空白 | 責任の曖昧化、連携だけでは経営危機が解消しない可能性 |
比較表は選択を自動化する採点表ではありません。例えば多数の利用者契約と職員を一括して安定的に引き継ぎたいなら合併の包括承継が有利に見えますが、消滅法人の全債務も引き継ぐため、潜在債務の大きさによって結論は変わります。対象施設だけを切り出したいなら事業譲渡が合いますが、利用者再契約や職員承諾の進捗がクロージング条件になります。
吸収合併|包括承継の利点と消滅法人全体を調べる責任
吸収合併では、吸収合併消滅社会福祉法人の一切の権利義務を、吸収合併存続社会福祉法人が承継します。存続法人の名称・法人番号・組織基盤を残せるため、二法人のうち一方に十分な管理体制があり、他方を全体として統合する場面で検討されます。ただし「強い法人が弱い法人を買う」という表現は適切ではありません。制度上は社会福祉法人同士の統合であり、合併対価を支払って支配を取得する取引ではないからです。
一般的な工程は、秘密保持、初期協議、基本合意、DD、合併条件・役員体制の協議、合併契約、事前開示、双方の評議員会承認、所轄庁認可、債権者保護、登記、事後開示、会計・雇用・利用者・システムの統合です。厚生労働省マニュアルは法定事項と実務上望ましい対応を同じ手引きに掲載しているため、工程表では「法定」「定款・契約上必要」「実務推奨」の三列に分けます。
合併認可後の債権者保護を逆算する
合併認可を受けた後、官報で公告し、借入金融機関など判明している債権者には個別に催告します。異議を述べる機会は2か月以上設定する必要があります。異議が出た場合は、社会福祉法の要件に従い、弁済、相当の担保、相当財産の信託等を検討します。ただし合併しても債権者を害するおそれがないときの例外を含め、具体的対応は弁護士・債権者と確認します。
この2か月は「クロージング直前に官報へ一度載せればよい」期間ではありません。所轄庁認可がいつ得られるか、官報掲載まで何営業日か、個別催告の宛先を確定できるか、異議が出た場合の対応時間があるかを逆算します。福祉医療機構や金融機関とは、認可申請より前から残高、担保、返済条件、合併後の債務者、必要書類を協議します。
包括承継でも一覧表は必要
法律上包括承継されるからといって、運用上の名義変更や相手方連絡が不要になるわけではありません。預金口座、保険、リース、給食・清掃委託、電気・通信、ソフトウェアライセンス、土地賃貸借、医薬品・衛生材料、寄附者との条件、指定通知、補助財産台帳を一覧にし、通知、変更、再審査、承諾の要否を契約条項と窓口へ確認します。チェンジ・オブ・コントロール条項という会社取引の用語だけで検索せず、合併・解散・包括承継・名称変更・再委託禁止等の条文も読みます。
利用者契約と雇用契約は包括承継されますが、運営主体の表示、個人情報の管理者、苦情窓口、料金、サービス内容、就業場所、賃金、退職金制度等を変えるなら、その変更自体に必要な説明・同意・規程手続を検討します。「自動承継」と「条件を自由に変更できる」は全く別です。
新設合併|対等感だけで選ばず、新法人立上げの負荷を見る
新設合併では、合併当事者である社会福祉法人が消滅し、新たに設立する社会福祉法人へ権利義務を包括承継させます。双方が既存名称に従属しない理念・名称・機関を作れるため、「対等な統合」の象徴として魅力があるように見えます。しかし、名称が公平かどうかと、手続・運営が安全かどうかは別問題です。
新法人の定款、評議員、役員、代表権、所在地、会計・口座、規程、システム、雇用管理、情報公表、介護指定・施設関係の名義を同時に立ち上げます。既存法人の仕組みを存続法人として使える吸収合併より、Day1の準備物が多くなります。両法人の基幹システムが異なる場合に、全てを新システムへ同日移行する計画は特に危険です。利用記録と請求は継続しつつ、会計や人事の一部を段階移行できるか、法令・監査・ベンダー契約を踏まえて設計します。
新設合併にも評議員会の承認、所轄庁認可、官報公告と判明債権者への催告、2か月以上の異議申述期間、設立登記、事前・事後開示等があります。新法人の名称を早く発表したいという広報日程で法定工程を圧縮してはいけません。名称、役員候補、事務所、定款、基本財産、予算、人員、指定の各ワークストリームが同じ前提を使っているかを、週次の前提条件台帳で確認します。
会計上も、株式会社の取得法やのれんの議論をそのまま当てはめません。厚生労働省マニュアルは、社会福祉法人には持分がなく合併対価が支払われず、一方が他方の支配を獲得することを想定しないため、経済的実態を統合と解釈し、結合時の適正な帳簿価額を引き継ぐと説明しています。個々の仕訳、内部取引、拠点区分、基本金、国庫補助金等特別積立金等は、社会福祉法人会計に詳しい公認会計士・税理士と確定します。
事業譲渡|範囲を選べる代わりに一件ずつ承継する
事業譲渡では、「特別養護老人ホームの建物と設備だけ」「施設運営に必要な資産・負債・職員・利用者契約・委託契約を一体として」など、承継対象を契約で定めます。範囲を限定できることは利点ですが、設備だけを移して事業を継続できるわけではありません。運営に不可欠な許認可、土地使用権、職員、利用者契約、給食、廃棄物、保守、請求システム、預り金を含む「事業として機能する束」を作る必要があります。
厚生労働省マニュアルは、社会福祉法に事業譲渡の固有規定はないものの取引行為として可能と解釈し、一般に定款変更や基本財産の増減が生じ、所轄庁の認可・届出が必要になると説明しています。同時に、社会福祉法人は社会福祉事業を行うために設立されたため、実施する社会福祉事業の全部を譲渡することはできないと考えられる、としています。何を「全部」とみるか、譲渡後に残る社会福祉事業が実質的に運営可能かは、所轄庁と専門家に確認します。
譲受主体の適格性を先に確認する
譲受法人が対象事業を法的に経営できるかを、候補選定の初期に確認します。特に第一種社会福祉事業は、国・地方公共団体・社会福祉法人を原則的な経営主体とする枠組みがあるため、一般企業へ設備と利用者を渡せば同じ形で継続できるとは限りません。介護保険法上のサービス種別、老人福祉法上の施設類型、土地・建物の所有・賃貸条件を組み合わせて判断します。
承継対象表は四つの区分を持たせる
契約別紙の対象表を「承継する」「承継しない」の二択にすると、調査中の事項が落ちます。「承継対象」「対象外」「相手方同意が得られた場合のみ対象」「調査完了後に決定」の四区分を設け、最終契約までに未決欄を解消します。各行に帳簿番号、契約番号、名義、所在、金額、担保、補助、同意先、期限、証憑、担当者を付けます。
職員と利用者の契約は当然には移りません。職員には転籍後の労働条件等を示し、本人の真意による承諾を得ます。利用者・家族には契約主体、サービス、料金、個人情報、預り金、苦情窓口、引継日を説明し、必要な個別契約を結びます。承諾数を「だいたい全員」と見込まず、匿名ID、説明日、回答、未回答理由、代替対応を進捗管理します。
事業譲渡契約書は、厚生労働省マニュアル上、法律で必ず作成しなければならないものではないと整理されています。しかし、対象範囲と責任の重要性から作成が望まれます。実務では書面化しない合理性は乏しく、重要な業務執行、基本財産処分、予算外義務等に応じて理事会・評議員会の決議や所轄庁手続を行います。
スキーム選択は「法人・事業・財産・人・指定」の順に絞る
スキームは税や手続件数だけで決めず、五段階で絞ります。第一に、承継課題が法人全体か一部事業かを特定します。第二に、対象事業を継続できる譲受主体を確認します。第三に、移転困難な基本財産、補助財産、借入・担保、寄附条件を洗い出します。第四に、職員・利用者の個別承諾を必要とする場合の実現可能性を評価します。第五に、介護指定と施設手続の空白を作らず実行できる日程かを検証します。
- 目的を一文にする:「理事長を交代する」ではなく、「地域唯一の特養80床を、夜勤・看護・栄養・請求体制を維持して10年以上継続できる運営基盤へ移す」のように、利用者価値と時間軸を含める。
- 残すものを決める:譲渡法人に残す社会福祉事業、職員、本部機能、基本財産、借入返済原資を示す。残存法人が空洞化しないか検証する。
- 包括承継の適否を見る:全法人統合が目的に合い、偶発債務を含む全体を受け止められるなら合併を比較する。
- 個別承継の実行性を見る:事業譲渡なら、利用者・職員・債権者・貸主・委託先の必要同意を期限までに取れるかを試算する。
- 行政クリティカルパスを確認する:所轄庁、指定権者、補助主体、登記、労働、消防・建築等の窓口へ相談し、同日実行が可能かを確認する。
- 失敗時の代替を持つ:承認や指定が間に合わない場合の延期条件、暫定委託、対象除外、連携継続を定める。ただし暫定措置も適法性を個別確認する。
この段階では、介護M&Aの全体的な進め方を入口として参照しつつ、株式会社向けの株式譲渡工程をコピーしません。候補法人との秘密保持、資料開示、基本合意、DD、最終契約という交渉の骨格は参考になりますが、対象物と行政手続の意味が違うからです。
理事会・評議員会・利益相反を決裁カレンダーに落とす
社会福祉法人の承継は、理事長同士が合意書へ署名すれば成立するものではありません。理事会は業務執行の決定、理事の職務執行監督、理事長の選定・解職等を担い、評議員会は法令・定款で定める事項を決議します。合併では合併契約について双方の評議員会承認が必要です。事業譲渡では一つの包括的な法定手続規定がないため、定款変更、基本財産、重要な財産の処分・譲受、予算外義務、事業開始・廃止等の各行為に必要な決議を特定します。
実務では、決議事項を「基本方針」「基本合意」「DD開始・費用」「契約案」「定款変更」「基本財産処分」「予算・事業計画」「役員候補」「最終実行判定」に分けます。各会議について、招集権者、招集通知期間、議題、添付資料、定足数、特別利害関係、議事録、所轄庁提出物、次の会議との依存関係を一行にします。理事会と評議員会を同日に置く場合も、先行決議が成立しなければ後続会議を開催しない条件を進行台本に書きます。
秘密保持と評議員の情報権を両立させる
早すぎる情報拡散は職員・利用者の不安や相手候補の信用を損ないます。一方、評議員会へ結論だけを示し、比較案、対象財産、財務影響、利用者保護、反対意見を伏せれば、実質的な審議ができません。秘密保持の対象者を必要な機関構成員へ段階的に広げ、資料に管理番号を付け、閲覧場所、持出し、返却・削除、質問窓口を定めます。
評議員会資料は、厚いDD報告書をそのまま配るより、意思決定に必要な論点を要約し、原資料へたどれる索引を付けます。最低限、承継目的、比較した選択肢、選定理由、相手法人の概要、対象範囲、財務見通し、基本・補助財産、借入、利用者・職員への影響、認可・指定の見通し、主要リスク、撤退条件を示します。「地域福祉のため」という抽象語だけでなく、どのサービスをどう維持するかを記載します。
利益相反と特別利益を二つの表で検査する
関係者表には、双方の役員・評議員・監事・職員・設立者、親族その他特殊関係、相手法人や取引先での役職、個人所有不動産、貸付・保証、顧問・仲介契約を記載します。次に支払表を作り、事業譲渡対価、退職慰労金、賃料、貸付金返済、コンサルタント報酬、役員就任後の報酬を分けます。各支払の契約根拠、金額根拠、決議、受益者、第三者比較、税務を確認します。
社会福祉法第27条は、評議員、理事、監事、職員その他の関係者への特別の利益供与を禁止しています。また、理事が双方の契約に関係する場合等は利益相反取引の承認・報告が問題になります。関係者だから直ちに取引禁止、外部者なら無条件に安全ということではありません。利害関係を開示し、審議・議決への参加可否、相当性、代替案を弁護士と確認し、議事録に残します。
| 決裁資料 | 主要な内容 | 証拠として残すもの |
|---|---|---|
| 選択肢比較書 | 役員承継、連携、合併、事業譲渡、継続・縮小の比較 | 評価基準、前提、検討日、反対意見 |
| 財産・対価説明書 | 簿価、評価方法、補助・担保、対価設定理由 | 鑑定・査定、専門家意見、入札・候補比較 |
| 利用者・職員影響書 | 契約、料金、配置、雇用条件、説明計画 | 説明資料、質問回答、承諾進捗 |
| 利益相反確認書 | 関係者、個人取引、報酬、賃貸借、貸付等 | 申告書、審議除外、相当性資料 |
| 実行条件一覧 | 認可、承認、指定、債権者同意、契約承諾 | 通知書、受領証、未充足理由、延期判断 |
社会福祉法人固有のデューデリジェンスは「承継可否」を調べる
DDの目的は、相手法人の欠点を数えることではなく、予定スキームでサービスを切れ目なく引き継げるか、変更すべき条件は何かを判断することです。社会福祉法人では、会社登記簿と決算書だけでは足りません。定款、所轄庁認可・届出、理事会・評議員会、基本財産、補助対象財産、福祉医療機構、寄附条件、社会福祉法人会計の拠点・サービス区分を、対象事業へつなげます。
法人・ガバナンスDD
設立認可書、現行定款と変更履歴、法人登記、役員・評議員名簿、特殊関係、就任承諾、欠格確認、理事会・評議員会議事録、監事監査、会計監査人、所轄庁指導監査と改善状況を確認します。議事録があるかだけでなく、実際に必要な議案を審議したか、招集・決議・利益相反処理が適切かを見ます。理事長個人が印鑑、口座、システム権限、取引先連絡を独占している場合は、承継前に権限を法人へ戻します。
事業・許認可DD
社会福祉事業、公益事業、収益事業を定款と現況報告、指定通知、事業所台帳、請求実績で突合します。サービス種別、指定番号、指定・更新日、定員、加算、管理者、事業所所在地、建物階、賃貸人が一致しているかを確認します。変更届の不足や定款とのずれがあっても、直ちに無効・不正と断定せず、事実と指定権者への相談結果を記録します。
財産・債務DD
土地・建物・設備・車両・現預金・積立資産・預り資産を、固定資産台帳、登記、実査、保険、補助財産台帳、担保、会計区分で照合します。借入は残高だけでなく、資金使途、契約条項、返済財源、担保、保証、補助条件、期限前弁済、合併・譲渡時の承諾を確認します。修繕履歴と長期修繕計画を重ね、承継後に必要な安全投資を収支へ入れます。
契約・利用者保護DD
利用契約、重要事項説明書、身元引受・保証、預り金、日用品費、食費・居住費、入所一時金等、苦情・事故・虐待防止、個人情報同意、成年後見、医療連携を確認します。事業譲渡で契約の個別承継が必要なら、契約書の譲渡禁止条項、本人の意思確認方法、家族・代理人の権限、未回答時の支援方法を整理します。利用者情報は要配慮個人情報を含むため、初期DDでは匿名化・集計化し、開示範囲と時期を段階化します。
人事・組織DD
職員名を並べる前に、職種、資格、常勤・非常勤、雇用期間、配置、夜勤、兼務、管理者、給与制度、退職金、労働組合、休職、外国人雇用、派遣・委託を匿名集計します。合併では雇用契約が包括承継され、事業譲渡では本人承諾が必要という法的入口を分けます。未払賃金の精密計算や処遇改善の金額検証は労務DDの専門領域であり、本稿では承継の実現可能性と工程に限定します。
資料開示の設計は、介護M&Aの売却前に整える指定・契約資料と、職員・利用者情報の機密管理と説明順序も参照してください。ただし、社会福祉法人では、公開されている計算書類と、承継判断に必要な原本・個人情報を区別することが重要です。
基本財産・その他財産・補助対象財産を三層で棚卸しする
施設の土地建物を「固定資産」という一分類で扱うと、承継条件を見誤ります。第一層は定款に記載された基本財産です。第二層はその他財産として保有する設備・車両・積立資産等です。第三層は国庫・自治体補助等で取得し、財産処分制限が付く補助対象財産です。同じ建物が基本財産かつ補助対象で、さらに借入担保にもなっていることがあります。それぞれ別の根拠と窓口を持ちます。
基本財産の「処分」は売却だけではない
定款例と厚生労働省マニュアルでは、基本財産を処分し、または担保に供するとき、理事会・評議員会の決議と所轄庁承認等が必要となる枠組みが示されています。対象行為が売買、贈与、交換、用途変更、取壊し、担保変更、合併による承継のどれかで手続が異なり得ます。基本財産の増減に伴う定款変更も合わせて確認します。
台帳では、定款上の表記、登記事項、固定資産台帳、現況、地番・家屋番号、面積、取得日、取得価額、帳簿価額、評価額、資金源、補助番号、借入・抵当権、利用事業、処分方法を一行にします。定款では「○○市所在の土地一筆」と記載されていても、分筆・合筆や住居表示変更後の登記と一致しないことがあります。承継契約締結前に、司法書士等と同一性を確認します。
補助対象財産は交付決定まで遡る
補助金で取得した財産は、経過年数や処分内容等により、事前承認、報告、国庫納付、条件付承認等が問題になります。「耐用年数を過ぎたから自由」「無償で同じ福祉目的へ渡すから返還なし」と一律に判断しません。交付決定通知、交付要綱、実績報告、財産処分承認基準、財産管理台帳、国・都道府県・市町村の負担関係を集め、交付主体へ書面で照会します。
建物本体だけでなく、増築、スプリンクラー、非常用発電、ICT、介護ロボット、車両、厨房、空調等が別年度・別制度の補助対象となっていることがあります。固定資産台帳の一資産に複数補助が含まれる場合は、工事請負明細、補助実績報告、写真、支払証憑から枝番を付けます。財産処分承認をクロージング条件にするなら、どの資産のどの行為を条件とするかを特定します。
現物確認は利用中の制約も見る
権利証や登記が整っていても、敷地内通路を隣接法人と共用している、給排水設備が別棟と一体、駐車場が口頭使用、厨房を複数施設で共同利用といった運用があります。譲渡境界を地図と設備系統図に落とし、事業譲渡後も消防避難、送迎、給食、廃棄物、感染対策、非常時対応が機能するかを現地で確認します。
借入・担保・福祉医療機構は残高証明だけで終わらせない
借入金の確認では、残高、返済日、利率に加え、資金使途、債務者、担保提供者、抵当物件、保証、補助との関係、合併・事業譲渡・代表者変更時の通知・承諾条項を読みます。吸収合併では債務が包括承継されますが、債権者保護手続と契約上の事前協議が必要です。事業譲渡で借入債務を譲受法人へ移すには、免責的債務引受等の法的構成と債権者同意を個別に設計します。
土地建物を譲受法人へ移し、借入は譲渡法人に残す案では、返済原資を失う、担保所有者と債務者が分離する、補助条件とずれるといった問題が起こります。反対に借入だけを移しても、融資目的の施設・収益が対象外なら合理性を説明できません。資産、債務、返済原資、担保、補助を一つの「資金系統図」にします。
福祉医療機構への相談を契約締結後まで待たない
福祉医療機構の融資を利用している場合、合併、新設法人、事業譲渡、債務引受、担保・登記の変更に必要な書類と審査を事前に確認します。所轄庁認可と融資手続は目的が違うため、一方の了解を他方の承諾と読み替えません。金融機関向けの承継後収支には、介護報酬だけでなく、修繕、採用、システム、退職金制度統合、金利・返済、補助返還可能性を含めます。
合併の法定債権者保護では2か月以上の異議申述期間があります。借入先が判明債権者であることは通常明らかなので、個別催告の準備をします。ただし、催告を送れば事前協議が不要になるわけではありません。異議が出てから初めて担保や返済条件を説明するのでは、合併日程全体が止まり得ます。
| 債務・負担 | 確認書類 | 合併の主な論点 | 事業譲渡の主な論点 |
|---|---|---|---|
| 長期設備資金 | 契約、残高証明、返済表、稟議 | 包括承継、債権者保護、担保名義 | 債務引受同意、対象資産・収益との対応 |
| リース・割賦 | 物件表、契約、解約・移転条項 | 通知・名義・与信再確認 | 契約譲渡承諾、対象外機器の返却 |
| 預り金 | 利用者別台帳、口座、残高照合 | 包括承継後の個別残高案内 | 返還または承継同意、資金の同時移転 |
| 退職給付関連 | 規程、引当、共済、外部積立 | 制度・規程統合、会計承継 | 雇用条件と債務負担、転籍承諾 |
| 未払工事・修繕 | 請負契約、検収、保証、補助 | 偶発・未計上債務を含む全体調査 | 完成責任、支払、瑕疵対応を契約で配分 |
対価・帳簿価額・事業価値・公益性を混同しない
合併と事業譲渡では対価の前提が違います。社会福祉法人の合併について、厚生労働省マニュアルは持分がないことから合併相手への金銭支払や経済的利益の供与を想定せず、会計上は統合として適正な帳簿価額を引き継ぐとしています。これは、対象施設に価値がないという意味でも、DDが不要という意味でもありません。包括承継する財産・債務と統合後収支を把握するため、財務・法務・運営調査は必要です。
事業譲渡では支払対価を検討できます。マニュアルは、譲渡法人は自法人で見積もった譲渡事業価値以上の受取対価、譲受法人は自法人で見積もった譲受事業価値以下の支払対価でなければ、法人外流出に該当すると考えられるという関係を示しています。これは両法人が必ず同じ価額を算定するという意味ではありません。評価前提が異なれば範囲が重ならないこともあり、その場合は条件を変えるか、取引を見送ります。
簿価・時価・収益価値は別の質問に答える
帳簿価額は会計上の未償却残高であり、土地の現在価値、建物の修繕負担、事業の将来収支を直接表しません。不動産鑑定・査定は土地建物の市場性を把握する材料ですが、用途制限、補助条件、福祉継続義務を無視した更地価値だけでは承継価値になりません。収益予測は運営価値を示しますが、介護報酬改定、人員確保、定員稼働、修繕、借入、地域需要の前提に左右されます。
評価書には、対象範囲、基準日、方法、前提、感応度、除外項目、補助・担保、利益相反を記載します。例えば建物簿価4億円、不動産評価5億円でも、直近5年に2億円の大規模改修と耐震対応が必要なら、その負担を収支へ入れます。逆に赤字事業でも、未使用土地など譲渡対象資産に価値がある場合があります。純資産、資産時価、将来キャッシュフローのいずれか一つを自動的な正解にしません。
架空の評価ブリッジ例
次は方法を理解するための完全な架空数値であり、適正価格や相場を示しません。法人Aが特養事業を法人Bへ譲渡する想定で、承継資産の帳簿価額6億5,000万円、外部評価を含む調整後資産価値7億1,000万円、承継予定債務1億8,000万円、5年間の修繕・システム投資現在価値1億2,000万円、運営改善を織り込まない事業収支価値レンジ3億8,000万〜4億8,000万円とします。これらを単純に足し引きするのではなく、資産アプローチと収益アプローチの重複を除き、補助・用途・担保制約を反映します。
譲渡法人Aは、対象事業を手放した後に残る障害福祉事業の本部費・借入返済・基本財産を検討します。譲受法人Bは、承継後の人員、修繕、利用者継続、指定取得、資金調達を検討します。両者が異なる価値を算定した場合、土地を賃貸に変える、設備更新を譲渡前に行う、債務を対象外にする、実行日を延期するなど、構造を調整します。合意価額だけでなく、なぜその構造が双方の法人財産と利用者保護に合理的かを議事録・評価資料へ残します。
厚生労働省の社会福祉法人会計に関する資料に基づき、法人全体、事業区分、拠点区分、サービス区分を確認します。対価決定と会計処理は同じ作業ではありません。譲渡資産の除却・移転、補助金等、基本金、積立資産、税務、不動産取得・登録の処理は専門家と仕訳・申告・開示まで設計します。
利用者契約・預り金・寄附金は「一人・一目的・一残高」で移す
合併では消滅法人の利用者契約が包括承継される一方、事業譲渡では当然には承継されません。この違いを説明文の一行で終わらせず、利用者ごとの契約、同意権者、預り金、個人情報、サービス変更を移行台帳にします。判断能力、成年後見、家族代表、身元引受人の関係は利用者ごとに異なるため、「家族会で多数決を取ったから全員承諾」という扱いはしません。
説明内容は安心材料と不利益情報の双方を含める
説明書には、承継目的、法的スキーム、新運営法人、予定日、施設名・場所、サービス・料金・職員・居室・食事・医療連携の変更有無、個人情報と記録の引継ぎ、預り金、苦情窓口、契約手続、質問期限を記載します。変更が未確定なら「変更なし」と約束せず、決定時期と再説明方法を示します。認知症等で本人の意思確認に配慮が必要なときも、本人を説明対象から外すのではなく、理解可能な方法と意思決定支援を検討します。
事業譲渡で再契約が必要な場合、契約書回収率だけを追うと、未回答者が見えなくなります。利用者匿名ID、本人説明日、家族・代理人説明日、質問、承諾、契約締結、口座振替、預り金確認、重要事項説明、個人情報同意、未完了理由を管理します。クロージング条件を「90%以上」とだけ定めると、医療依存度の高い利用者や意思決定支援が必要な方を数字上の例外にし得るため、未完了一件ごとのサービス継続策も判定条件にします。
預り金は残高総額ではなく個人別に照合する
利用者預り金、立替金、日用品費、未使用前払金等は、利用者別台帳、現金・預金残高、領収証、契約、会計勘定を照合します。事業譲渡では、譲渡側が返金するのか、利用者同意のもと資金と債務を同額で移すのかを決めます。合併でも包括承継後に個別残高を案内し、問い合わせ窓口を明示します。総額が合っていても個人別に過不足が相殺されている状態は解消します。
寄附金・積立資産は目的を読む
寄附申込書、使途指定、遺贈条件、基金規程、積立目的を確認します。「施設建替えのため」「地域の高齢者送迎のため」など目的がある資金を、一般運転資金として移すことはできません。事業とともに承継するのか、譲渡法人に残すのか、目的変更が可能かを、寄附者意思、定款・規程、会計、所轄庁・専門家の確認に基づき判断します。
職員雇用・就業規則・退職手当共済をスキーム別に引き継ぐ
介護事業の継続可能性は、建物より先に職員で決まることがあります。しかし、早期に個人名付き資料を広く開示すればプライバシーと信頼を損ない、説明を遅らせすぎれば噂と離職を招きます。初期は職種・資格・勤務形態・配置・給与帯を匿名集計し、スキームと候補を絞った後、法的根拠と秘密保持を整えて必要最小限の個人情報を開示します。
合併では承継後の条件調整が焦点になる
吸収合併・新設合併では雇用契約と労働条件が包括承継されます。それでも、二法人の給与表、手当、休暇、定年、退職金、勤務地、夜勤、評価、労働時間、労働協約、就業規則をどう併存・統合するかを決めなければなりません。不利益変更や大きな条件変更を行う場合は、内容・代替措置を説明し、必要な同意・労使手続を取ります。「合併だから旧規程は当日失効」という一括処理をしません。
事業譲渡では本人の真意による承諾が必要になる
事業譲渡では職員が譲受法人へ当然に移るわけではありません。譲受法人は職務、勤務地、賃金、勤務時間、休暇、勤続年数・退職金の取扱い、社会保険、試用期間の有無等を示し、対象職員の真意による転籍承諾を得ます。既存労働条件を維持した移籍を原則とし、変更がある場合は転籍承諾と条件変更への同意を分けて確認します。
厚生労働省の事業譲渡等指針は、2026年1月20日の改正情報を掲載し、事業譲渡における労働契約承継では労働者の真意による承諾と、労働者・労働組合との協議を重視しています。説明会で沈黙したことを承諾とみなさず、個別質問の機会、検討期間、書面、相談窓口を用意します。退職届の提出だけを先に求めることは避け、譲受法人の労働条件と雇用契約を同時に確認できる状態にします。
配置基準と承諾進捗を同じ表で見る
承諾者数が全体の90%でも、管理者、看護職、介護支援専門員、夜勤可能者が不足すれば指定・運営基準を満たせない可能性があります。匿名IDごとに職種・資格・兼務・夜勤可否・承諾状況を置き、サービス単位でクロージング後の勤務表を作ります。本人承諾前に確定勤務表として扱わず、未承諾者が残る場合の採用・応援・実行延期を準備します。
退職手当共済の期間通算は所定手続を条件にする
社会福祉施設職員等退職手当共済では、合併や事業譲渡の状況、譲受法人が共済契約者であるか、施設が加入対象か等に応じた手続があります。厚生労働省マニュアルは、一定の場合に被共済職員期間の通算が認められる一方、共済契約関係や施設追加等の手続が必要であるため、福祉医療機構へ事前相談するよう示しています。福祉医療機構の2026年度退職手当共済制度マニュアルを参照し、対象職員、届出様式、基準日を個別に確認します。
介護保険指定・社会福祉施設手続を法人手続と並行させる
介護事業者の法人格が変わる、事業を別法人へ移す、所在地・名称・管理者等が変わる場合に、どの申請・届出が必要かはサービス種別と指定権者の運用で確認します。新設合併や事業譲渡で新しい法人が運営主体になる場合、旧指定番号を当然に使えると決めつけません。指定取得日、旧事業の廃止日、利用契約、請求開始月がずれると、サービス提供は続いても請求主体を説明できない期間が生じます。
サービス別指定マトリクスを作る
一施設内でも、介護老人福祉施設、短期入所生活介護、通所介護、居宅介護支援など複数指定があり得ます。事業所番号、指定権者、指定有効期間、定員、加算、管理者、申請種別、申請期限、現地確認、必要図面、手数料、電子申請、旧指定の処理を一行ずつ記録します。厚生労働省の介護事業者向け電子申請案内は入口として有用ですが、申請種別と締切は指定権者の最新案内を優先します。
第一種社会福祉事業の施設では、社会福祉法上の施設設置・廃止手続も確認します。社会福祉法第64条の対象となる施設事業の廃止では、廃止日の1か月前までの届出規定があります。ただし、すべての介護事業にこの条文を一律適用しません。施設類型、設置者、譲渡・合併の法的効果を社会福祉施設の整備・運営に関する厚生労働省資料と所管部署で確認します。
請求の切替をDay1より先に試験する
新法人・新指定番号・新口座・電子証明・請求ソフトの登録が揃わなければ、介護報酬請求が遅れます。サービス提供月、請求月、審査月、入金月をカレンダーにし、旧法人が請求する範囲、新法人が請求する範囲、返戻・過誤の後処理、利用者負担の口座振替、旧口座の閲覧期間を決めます。請求データを本番送信する前に、マスタ、証明書、権限、出力帳票、会計連携をテストします。
指定が予定日に間に合わない場合、無指定で提供して後から遡及すればよいと想定しません。実行日の延期、対象サービスの除外、行政と確認した代替運用を契約の停止条件にします。利用者へは、延期理由、サービスへの影響、契約主体、連絡先を改めて説明します。
合併・事業譲渡契約で「実行できる条件」を文章にする
契約書は合意した対価や日付を記すだけでなく、調査で判明した承継条件を実行可能な約束へ変えるものです。合併契約は社会福祉法上の必要事項を満たし、事前開示、評議員会承認、所轄庁認可等の法定工程につなげます。事業譲渡契約は対象事業・資産・負債・契約を別紙で特定し、個別同意、基本財産、補助財産、指定、職員、利用者を前提条件にします。
目的・基本原則
冒頭で、地域サービスの継続、利用者の安全・選択、職員の安定、法人財産の保全を目的として明示します。目的条項だけで法的義務の範囲は決まりませんが、解釈が分かれたときの軸になります。「経営効率化」だけでなく、対象施設、継続予定サービス、重要な変更を示します。
対象範囲と基準日
事業譲渡では、資産・債権・債務・契約・職員・記録・知的財産・システム・預り金を別紙で特定し、対象外も列挙します。移転日までに増減する消耗品、未払費用、利用者入退所、職員異動等には更新方法を定めます。合併では包括承継の範囲を選別できないことを前提に、判明事項の是正、情報更新、実行前行為の制限を置きます。
前提条件
所轄庁認可・承認、定款、基本財産、補助対象財産、債権者手続、金融機関同意、介護指定、重要契約承諾、職員・利用者手続、登記、保険、システム準備を一覧化します。「必要な許認可が全て得られること」と抽象化せず、窓口、手続名、対象、証拠、最終期限を付けます。一部が未充足の場合に、延期、放棄、対象除外のどれを選べるかも定めます。ただし法令上必要な条件を当事者判断で放棄することはできません。
表明事項・誓約・補償
定款・機関、財務、資産、補助、借入、指定、雇用、利用者、訴訟・行政、個人情報について、当事者が確認した事実を表明します。表明は「問題が一切ない」という無限保証にせず、重要性、認識限定、開示資料との関係、基準日を明確にします。契約から実行までの誓約には、通常運営、重要財産処分の制限、採用・退職・事故・行政連絡の更新、資料アクセス、利用者・職員説明を含めます。
社会福祉法人の合併は株式会社の株式譲渡と同じ売主補償モデルではありません。消滅法人自体がなくなるため、誰がどの根拠で責任を負えるかを検討します。事業譲渡でも、譲渡法人の残存財産と社会福祉事業継続を害する過大な補償を置けば問題になります。既知事項は可能な限り実行前是正・対象範囲・対価へ反映し、補償だけに依存しません。
移行支援と個人情報
請求、会計、給与、ケア記録、事故・苦情、医療連携、委員会、保守等について、旧担当者がどの期間・権限・費用で支援するかを定めます。個人情報は目的、対象、移転根拠、暗号化、アクセス権、移行確認、旧環境の削除・保存義務を設定します。データをコピーしただけで移行完了とせず、件数・ハッシュ・サンプル閲覧・権限試験・バックアップ復元で検証します。
完全な架空ケース|法人Aが特養事業を隣接地域の法人Bへ承継する
ここからは工程のつながりを示すための架空例です。法人名、所在地、施設、利用者、職員、財産、金額、行政相談、意思決定は全て創作であり、実在法人・取引・当センターの支援実績ではありません。数値を価格相場、必要期間、同意率の標準として使用しないでください。
法人Aの状況
社会福祉法人Aは、X県Y市で特別養護老人ホーム「施設甲」80床、併設短期入所10床と、別市で障害福祉の共同生活援助2拠点を運営しています。施設甲は土地・建物が定款上の基本財産で、建設時の国・県・市補助と福祉医療機構借入があります。職員72名、特養入所者76名、短期入所の登録利用者34名という設定です。法人Aは障害福祉事業を継続する方針ですが、施設甲では管理者候補と大規模修繕資金の確保が課題になっています。
法人Aの理事長は高齢ですが、この事実だけを譲渡理由にしません。理事会は、①同一法人内で後継管理者を採用する、②法人Bと人材・購買を連携する、③法人A全体を吸収合併する、④施設甲の介護事業を事業譲渡する、という四案を比較します。比較目的は理事長個人の換金ではなく、施設甲の長期継続と、法人Aが残す障害福祉事業の安定です。
法人Bの状況
社会福祉法人Bは、隣接地域で特養、通所介護、居宅介護支援を運営し、本部に財務、人事、施設管理の専任者がいます。法人Bが規模を拡大したいというだけでは適格性を判断できないため、過去の所轄庁指導、財務余力、管理者配置、修繕実績、地域連携、利用者・職員への方針をDDします。法人B側も、施設甲の補助・借入、建物状態、職員承諾、利用者契約、指定取得を調べます。
架空ケースで事業譲渡を第一案にした理由
法人Aは共同生活援助を継続し、そこに紐づく寄附金、職員、建物、地域ネットワークを残します。法人A全体の吸収合併では、障害福祉事業まで法人Bへ包括承継され、検討目的を超えます。新設合併は双方の法人を消滅させ、新法人の指定・本部を同時に立ち上げる負荷が大きいと評価します。連携だけでは、施設甲の修繕資金と管理者承継を恒久的に解決できないとの仮説です。このため、施設甲の事業譲渡を第一案とします。
この判断は架空例の前提に基づくもので、実在案件に事業譲渡を推奨するものではありません。法人Aが社会福祉事業の全部を譲渡しない構造であっても、残存事業が実体を持って継続できるか、定款変更・基本財産処分等が認められるかは所轄庁へ相談します。法人Bが対象の第一種社会福祉事業と介護サービスを運営できることも指定権者等へ確認します。
架空の承継対象と除外対象
| 区分 | 架空の内容 | 実行前の確認 |
|---|---|---|
| 対象資産 | 施設甲の土地建物、備品、車両、消耗品、施設専用積立資産のうち承認された範囲 | 基本財産処分、補助財産処分、登記、実査、保険、価値評価 |
| 対象債務 | 施設甲建設に係るWAM借入1億8,000万円と、承諾を得たリース等 | 債務引受・担保・返済条件について債権者の明示的同意 |
| 対象契約 | 利用契約、給食、清掃、廃棄物、保守、医療連携、賃貸・ライセンス等 | 譲渡禁止、承諾、再契約、個人情報、名義、料金 |
| 職員 | 施設甲に主として従事する72名のうち本人が転籍を承諾した職員 | 条件通知、真意による承諾、配置基準、共済、社会保険 |
| 利用者関連 | 承諾を得て再契約する利用者、個人別預り金・記録 | 本人・権限ある代理人、残高照合、契約・口座・情報移行 |
| 対象外 | 共同生活援助2拠点、その基本財産・職員・寄附目的資金、法人A本部の一部 | 法人Aが承継後も事業・組織・資金を維持できるか |
| 条件付 | 補助対象の非常用発電設備、共同利用中の送迎車、係争中の保守契約 | 行政・相手方の承認結果により対象・代替・除外を確定 |
架空数値で作る実行判定
施設甲の資産帳簿価額を6億5,000万円、外部資料を踏まえた資産評価を7億1,000万円、承継を予定する借入を1億8,000万円、今後5年の改修・設備投資を名目額1億4,000万円と仮定します。法人A・Bは別々の専門家と前提で価値を評価し、価格だけでなく、修繕負担、借入、預り金、補助条件、職員条件、システム移行を含む条件案を比較します。ここで示す数値は計算方法を説明する架空値で、無償・有償の結論や特養の市場価格を示しません。
職員72名については、匿名集計の段階で、介護職45名、看護職7名、介護支援専門員3名、栄養・調理8名、事務・施設管理9名と仮定します。個別説明後の承諾見込みではなく、承諾書を受領した人数で勤務表を更新します。例えば66名が承諾しても、夜勤可能者が不足するなら実行条件は未達です。利用者も、再契約書の枚数だけでなく、預り金・口座・個人情報同意・医療連携が一人ずつ整ったかを判定します。
合併へ切り替える再評価条件
調査の結果、施設甲の土地建物・借入・委託・本部機能を個別に分けることが極端に困難で、法人Aの残存障害事業も法人Bとの一体運営を希望する状況になれば、吸収合併を再比較します。その場合、事業譲渡DDで集めた資料を利用しつつ、法人A全体の未把握債務、共同生活援助の指定・利用者・職員、合併の評議員会承認、所轄庁認可、債権者保護へ調査範囲を広げます。契約直前まで事業譲渡の資料名のまま進めず、決議・説明・行政相談を合併前提で更新します。
18か月の架空工程|M-18からM-1まで月ごとに判断する
次表は、前節の架空事業譲渡を想定した説明用の架空モデルです。M-1の翌日を自動的に実行日とする法定標準工程ではなく、所轄庁・指定権者の審査期間、施設・財産、関係者数に応じて延長・順序変更します。合併へ切り替える場合は、所轄庁認可後に2か月以上の債権者異議申述期間を確保するなど、合併固有工程へ全面的に組み替えます。
| 月 | 中心作業 | 完成させる証拠 | 月末の判断ゲート |
|---|---|---|---|
| M-18 | 法人A理事会で施設甲の継続課題を定義し、役員承継・連携・合併・事業譲渡を比較する。情報管理責任者を決める。 | 課題定義書、選択肢比較の評価軸、秘密情報一覧、プロジェクト憲章 | 個人の換金ではなく利用者・地域・残存法人の目的として説明できるか |
| M-17 | 定款、現況報告、計算書類、指定、基本財産、借入、補助、施設・事業一覧を法人A内で収集する。 | 法人・事業・資産・債務の初期マップ、資料欠落表、原本保管場所 | 承継対象候補と法人Aに残す事業を暫定的に分けられるか |
| M-16 | 法人Aの所轄庁へ、複数案を比較中であること、全部譲渡ではない構造、基本財産・補助・借入の概要を相談する。 | 相談票、面談記録、必要手続・追加資料・他部署一覧 | 事業譲渡案の検討継続を妨げる重大な制度論点がないか |
| M-15 | 候補選定基準を決め、法人B等と秘密保持契約を締結する。公開情報と匿名集計で初期評価する。 | 選定基準、候補比較、NDA、アクセス権台帳、匿名事業概要 | 法人格・事業運営資格・財務・地域方針が候補条件を満たすか |
| M-14 | 法人Bと現地確認を行い、建物、動線、共同設備、職員体制、サービス継続上の制約を把握する。 | 現地確認記録、設備系統図、修繕仮説、追加質問票 | 施設甲を独立した事業として移せる構造か、共有部分の代替があるか |
| M-13 | 基本合意の論点をまとめる。独占交渉、予定スキーム、対象範囲、費用、対価評価方法、撤退条件を検討する。 | 基本合意書、非拘束・拘束条項一覧、議事録、利益相反申告 | DDを行う合理性と双方の費用負担を機関として承認できるか |
| M-12 | 法務・財務・会計・財産・補助・借入・指定・雇用・利用者・ITのDDを開始する。 | データルーム索引、質問回答ログ、レッドフラッグ台帳、原本照合記録 | 個人情報を必要最小限に抑えつつ承継可否を検証できているか |
| M-11 | 土地建物・設備の評価、長期修繕、事業収支を作り、法人A・Bが各自の事業価値を検討する。 | 評価報告、前提一覧、感応度、修繕計画、双方の財産毀損検討 | 両法人の合理的価値範囲が重なるか、構造調整が必要か |
| M-10 | 福祉医療機構・金融機関、補助金交付主体、指定権者、施設担当部署へ個別相談を開始する。 | 窓口別論点表、残高・担保図、補助財産表、指定マトリクス | 認可・承認・同意・指定のうち最長経路と必要前提を特定したか |
| M-9 | DD中間結果でスキームを再判定し、承継対象・対象外・条件付・未決を整理する。 | 中間DD報告、承継対象表、代替案、合併への切替条件 | 事業譲渡を維持するか、吸収合併・連携へ変更するか |
| M-8 | 事業譲渡契約、決議資料、定款変更、基本財産処分、補助財産、債務引受、指定の申請案を作る。 | 契約初稿、別紙、申請書ドラフト、決裁カレンダー、責任分担表 | 同じ対象範囲・予定日が全書類で一致しているか |
| M-7 | 職員説明案と労働条件を確定し、利用者・家族説明案、再契約書、預り金確認書を準備する。 | 職員条件通知、質問回答集、利用者向け資料、承諾進捗台帳 | 説明前に未確定事項と確定事項を分け、相談窓口を用意したか |
| M-6 | 必要な理事会・評議員会で契約・財産・定款・予算等を審議し、利益相反を処理する。 | 招集通知、配付資料、議事録、反対意見・質問への回答、決議証明 | 情報量と審議時間が十分で、決議が形式だけになっていないか |
| M-5 | 契約を締結し、所轄庁・補助主体・指定権者等へ必要な申請・届出を提出する。職員個別説明を始める。 | 締結契約、受領印・受付記録、照会回答、職員面談記録 | 契約の前提条件と行政書類の処理状況を一つの台帳で追えるか |
| M-4 | 職員の転籍承諾、利用者・家族の説明・再契約、重要契約の承諾、口座・保険・システム準備を進める。 | 匿名承諾表、勤務表案、利用者移行表、契約同意書、移行テスト計画 | 件数ではなく、配置・個別保護・事業機能に必要な条件が満たせるか |
| M-3 | 行政・債権者からの補正に対応し、データ移行、請求、給与、給食、夜勤、災害対応をリハーサルする。 | 補正回答、テスト結果、障害一覧、緊急連絡網、ロールバック案 | 重大障害を解消し、再試験の日程が実行前に収まるか |
| M-2 | 承認・指定・同意の証拠を確認し、資産・負債・預り金・職員・利用者の差分を基準日直前版へ更新する。 | 前提条件証拠フォルダ、更新別紙、残高確認、Day1勤務・連絡表 | 未充足を放棄可能・延期・実行中止に分類し、責任者が判断できるか |
| M-1 | 双方の機関・責任者が実行判定を行い、引渡書、登記・送金・鍵・権限・記録移行、発表を最終確認する。 | 実行判定書、引渡物一覧、署名版、最終移行結果、利用者・職員告知 | 認可・承認・指定・人員・安全の必須条件が揃わなければ延期できるか |
18か月を掛ければ必ず安全という意味ではありません。設備や補助が少ない在宅事業では短い工程が可能な場合があり、複数施設、土地区画整理、建替え、係争、広域指定がある案件はさらに長くなります。重要なのは、早い段階で一度決めた日付を守ることではなく、行政・利用者・職員・財産の実行条件を満たした日を選ぶことです。
吸収合併を選ぶ場合には、表のM-8以前に合併契約・事前開示・評議員会・所轄庁認可の工程を確定し、認可後の官報公告、判明債権者への催告、2か月以上の異議申述期間を置きます。事業譲渡の重要契約同意や職員承諾を、そのまま合併の法定債権者保護に置き換えることはできません。
クロージングと移行管理|Day1の安全を最優先する
実行日は契約上の権利移転日であると同時に、利用者の生活が普段どおり続く一日です。法律・会計の担当だけでなく、施設長、夜勤責任者、看護、給食、送迎、請求、IT、設備、苦情窓口が参加する運用司令表を作ります。高齢者施設では、午前0時に契約主体が変わっても、服薬、排泄、食事、ナースコール、緊急搬送は途切れません。
実行判定会議で確認する五つのゲート
- 法的ゲート:機関決議、契約、所轄庁認可・承認、登記準備、必要な相手方同意が証拠付きで完了している。
- 指定・施設ゲート:介護指定と施設手続の効力日、指定番号、請求主体、運営規程、人員が一致している。
- 利用者ゲート:説明・契約・個人情報・預り金・医療連携の未完了一覧と、各人の継続策がある。
- 職員ゲート:雇用承継または転籍、勤務表、賃金支払、社会保険、共済、緊急連絡が準備されている。
- 事業継続ゲート:鍵、口座、現金、薬剤・物品、給食、通信、記録、バックアップ、保険、災害対応を試験済みである。
「担当者が大丈夫と言った」を完了証拠にしません。認可書、承認書、指定通知、同意書、テスト結果、残高確認、引渡受領書を格納し、未完了には期限と代替を付けます。未充足が法令・指定・利用者安全に関わるなら、契約上放棄できると書いてあっても実行を止めます。
引渡当日の時刻表
架空例では、前日18時に最終利用者・職員差分を凍結し、当日0時に契約主体を切り替え、6時に夜勤から日勤へ利用者状態を引き継ぎ、8時に法人Bの責任者が口座・システム・緊急連絡を確認します。10時に鍵・印章・原本・現金・預り金・備品の受領、12時に給食・服薬・送迎の異常確認、15時に請求マスタの読取テスト、17時に初日報告会を行う設定です。実際の時刻は施設運営と契約に合わせます。
データ移行は、旧システムの全削除を当日に行いません。法定保存、監査、事故・苦情、介護報酬再請求のための保存義務を確認し、旧環境を読み取り専用化するか、証跡付きでアーカイブします。譲渡側が保有を続ける必要のない複製は、保存根拠・訴訟保全等を確認したうえで期限を定め、削除証跡を残します。
最初の100日で変更しない事項も決める
初日から法人Bの制服、記録様式、給与、給食業者、システム、委員会を全て統一すると、職員負荷と事故リスクが重なります。法令・安全上直ちに直す事項、30日以内、100日以内、次年度に分けます。例えば緊急連絡先と個人情報権限は初日、請求マスタは指定・請求に合わせて早期、給与制度の統合は労使協議と十分な説明後、ブランド変更は利用者の混乱を抑える日程とします。
承継後の指標は稼働率や収支だけにせず、重大事故、服薬・食事・送迎の中断、職員欠勤・離職、利用者・家族の問い合わせ、契約未完了、預り金差異、請求エラー、システム障害、行政補正を週次で見ます。異常があれば現場個人を責める前に、引継資料、権限、教育、勤務負荷、決裁の設計を修正します。
医療法人・NPO法人・一般社団法人・株式会社との違い
「非営利法人なら同じ」「介護事業者なら同じM&A手続」という理解は危険です。根拠法、構成員、持分、機関、合併可能な相手、所管行政、残余財産、事業主体の制限が異なります。本稿の理事会・評議員会、合併認可、基本財産、社会福祉法人会計を他法人類型へそのまま当てはめないでください。
| 法人類型 | 承継検討で最初に確認すること | 社会福祉法人との主な違い |
|---|---|---|
| 社会福祉法人 | 社会福祉法、定款、所轄庁、基本財産、合併・事業譲渡、指定 | 株式・持分を売却する仕組みではない。本稿の中心 |
| 医療法人 | 医療法、定款・寄附行為、社員・評議員等、持分の有無、都道府県手続 | 根拠法・機関・合併や分割の認可制度が別。社会福祉法の条文を使わない |
| NPO法人 | 特定非営利活動促進法、社員総会、所轄庁、定款、合併等 | 社会福祉法人の基本財産・評議員会制度と同一ではない |
| 一般社団・財団法人 | 一般法人法、社員・評議員、公益認定の有無、定款 | 一般社団法人は社会福祉連携推進法人の認定主体になり得るが、構成社会福祉法人と同一化しない |
| 株式会社・合同会社 | 会社法上の株式・持分、株主・社員、事業譲渡、会社分割等 | 所有権・支配権取引があり得る。株式譲渡の説明を社会福祉法人へ移さない |
厚生労働省の医療法人の合併・分割に関する通知は、医療法人について別の制度・認可があることを確認する比較資料です。介護施設が医療法人運営である場合は、その医療法人の類型・定款・持分・都道府県手続を基礎に別途設計します。社会福祉法人の合併マニュアルを根拠に医療法人の手続を進めません。
また、社会福祉連携推進法人は一般社団法人を認定する制度ですが、社員となる社会福祉法人の法人格を吸収するものではありません。共同研修や経営支援を行っていても、利用者契約、雇用、基本財産、介護指定の主体は各法人のままです。連携を将来の合併前段階にする場合も、情報共有の根拠と各機関の独立した意思決定を守ります。
よくある失敗と是正策|日程を守るより前提を直す
| 失敗 | なぜ起こるか | 是正策 |
|---|---|---|
| 理事長の株式売却として交渉する | 会社M&Aのひな型を法人類型確認前に使う | 株式・持分がないことを冒頭で確認し、合併・事業譲渡・役員交代・連携へ言い換える |
| 退任者への支払を対価へ混ぜる | 貸付金返済、退職慰労金、賃料、顧問料を一括で「売却代金」と呼ぶ | 支払ごとに原契約、相当性、機関決議、利益相反、税務を別紙で検証する |
| 所轄庁認可だけで全て終わると考える | 法人制度と介護指定・施設・補助・債権者を混同する | 窓口別手続表と二本立て工程を作り、クロージング条件へ個別に記載する |
| 簿価イコール対価と決める | 会計残高を事業価値や不動産時価と同一視する | 資産・収益・修繕・補助・担保の前提を分け、双方が評価過程を保存する |
| 補助財産を後から発見する | 建物本体だけを見て設備・増改築の別年度補助を調べない | 交付決定・実績報告・固定資産台帳・工事明細を枝番で突合する |
| 事業譲渡で雇用が自動承継すると説明する | 合併の包括承継と混同する | 労働条件を提示し、個別の真意による転籍承諾を得て、配置別に進捗を判定する |
| 利用者説明を広報だけで済ませる | 説明会の開催を個別契約・預り金・意思確認の代替にする | 利用者別移行台帳で承諾、契約、残高、情報同意、未完了時の継続策を管理する |
| 合併の2か月を見落とす | 官報公告・個別催告を形式的な最終作業とみる | 所轄庁認可後の異議申述期間を逆算し、判明債権者と認可申請前から協議する |
| 指定番号を旧法人のまま使えると想定する | 法人格の承継効果と指定行政を同じに考える | サービス別指定マトリクスを指定権者と確認し、請求・口座・証明書まで試験する |
| 実行日に全制度を統一する | 効率化を急ぎ、現場変更を同時発生させる | 安全・法令上必須、30日、100日、次年度へ分け、変更凍結期間を設ける |
| 未完了を口頭の見込みで放棄する | 日付や公表を優先し、証拠を確認しない | 実行判定書に認可・指定・同意・人員・テスト証拠を添付し、延期権限を明確にする |
| 残る法人を空洞化させる | 譲渡事業だけを評価し、本部費・借入・人員を残存法人へ置き去りにする | 承継後3〜5年の法人A事業計画を作り、残存社会福祉事業の実体と資金を確認する |
是正の共通原則は、書類を増やすことではなく、誤った前提を直すことです。例えば指定が間に合わないとき、申請書の部数を増やしても解決しません。実行日を延期し、契約・職員・利用者・請求の日付を合わせ直します。補助対象財産が判明したとき、対象表から隠すのではなく、交付主体へ相談し、承認条件、対象除外、代替資産、対価への影響を再設計します。
担当別チェックリスト|誰が決め、誰が証拠を持つか
理事会・評議員会のチェックリスト
- 承継目的が利用者、地域、職員、残存法人の観点で具体化されている。
- 役員交代、連携、吸収合併、新設合併、事業譲渡を比較し、選ばない理由も記録した。
- 相手法人の適格性、財務、運営、ガバナンスを第三者資料も含め確認した。
- 対象・対象外財産、債務、契約、職員、利用者、指定を把握した。
- 基本財産、補助、借入・担保、対価について合理性資料がある。
- 関係者取引、退任者への支払、個人不動産等の利益相反を開示した。
- 行政・債権者・利用者・職員の未確定事項と撤退条件を理解した。
- 招集、定足数、議決、議事録、特別利害関係を定款・法令に照合した。
施設・介護運営担当のチェックリスト
- サービス・事業所ごとに指定番号、効力日、申請種別、指定権者を確認した。
- 利用者ごとの説明、承諾、再契約、預り金、医療連携、個人情報を追跡している。
- 承継後の勤務表が資格・人員・夜勤・兼務の要件を満たす見通しである。
- 給食、服薬、記録、送迎、事故・感染、苦情、災害の責任者と連絡先が決まった。
- 旧・新法人の介護報酬請求月、返戻・過誤、口座、証明書を整理した。
- 重要事項説明書、運営規程、掲示、ウェブ、公表情報の更新日を決めた。
- 未承諾・未契約の利用者や職員について、排除ではなく継続支援策がある。
財務・会計・財産担当のチェックリスト
- 定款、登記、固定資産台帳、現物、補助財産台帳、担保を資産単位で照合した。
- 法人・事業・拠点・サービス区分と対象事業の収支を橋渡しできる。
- 借入、リース、預り金、退職給付、未払修繕等を対象・対象外に分けた。
- 帳簿価額、時価、収益価値、将来修繕を混同せず、評価前提を残した。
- 双方の法人外流出防止と特別利益供与禁止の観点を検討した。
- 対価・債務・預り金・現預金の決済方法と送金先を法人名義で確認した。
- 実行日時点の貸借・残高・資産引渡しを証明する書類がある。
人事・労務担当のチェックリスト
- 合併の包括承継と事業譲渡の個別承諾を説明資料で区別した。
- 職員が判断できる時点で労働条件を示し、個別質問と検討期間を設けた。
- 承諾しない職員へ不利益な圧力をかけず、真意を記録する運用がある。
- 就業規則、給与、休暇、勤続、退職金、労働協約、社会保険を比較した。
- 退職手当共済について福祉医療機構へ事前照会し、届出担当を決めた。
- 個人情報の開示範囲、アクセス権、保管・削除を決めた。
- 承継後の初回給与、勤怠締め、年末調整、証明書発行を試験した。
法務・行政・プロジェクト事務局のチェックリスト
- 手続を法定、定款・契約上必要、実務推奨の三種類に分類した。
- 所轄庁、指定権者、施設、補助、債権者、登記等の担当窓口を確認した。
- 全申請・契約・決議で法人名、対象範囲、予定日、財産が一致している。
- 前提条件に証拠、責任者、期限、放棄可否、未充足時対応が付いている。
- 個別契約の譲渡・合併・通知・解除・再委託・情報条項を確認した。
- 週次で前提変更、行政補正、重大事故、職員・利用者進捗を更新している。
- 実行・延期・中止を判断する会議体と権限者が明確である。
所轄庁相談資料と理事会資料を「読める一冊」にする
行政相談資料は、データルームの全ファイルを印刷したものではありません。担当者が、誰が、何を、いつ、どの法的行為で承継し、どの福祉サービスを継続するのかを短時間で理解できる索引が必要です。本文10〜20ページ程度の説明書に、証拠資料の別冊・電子索引を付ける設計が一例です。自治体指定様式がある場合はその様式を優先します。
- 表紙・版管理:案件名、法人名、基準日、作成者、版、秘密区分、変更履歴。
- 一頁要約:目的、希望スキーム、対象事業、予定日、相談したい質問、未確定事項。
- 法人・機関図:双方の定款目的、役員・評議員、所轄庁、承継後の機関。
- 事業・指定表:社会福祉事業、公益・収益事業、施設、介護指定、定員、所在地。
- 財産・債務図:基本財産、その他財産、補助、借入、担保、対象・対象外。
- 利用者・職員影響:人数は集計で示し、契約・雇用・説明・継続策を記載。
- 工程:機関決議、認可・承認・届出、指定、契約、雇用、実行日を横断。
- 論点回答表:質問、当方の理解、根拠、行政回答、追加資料、次回期限。
理事会・評議員会資料には、行政提出書類に加え、他案比較、相手法人選定、価値評価、利益相反、承継後の収支・修繕、未達時の撤退を載せます。行政が手続上受理することと、機関が善管注意を尽くして合理的に判断することは同じではありません。逆に、機関が賛成しても、所轄庁認可・基本財産承認・介護指定等が約束されたことにはなりません。
サービス固有の現地確認は、買い手が現地で確認する運営・施設評価の視点や、例として小規模多機能型居宅介護の登録・人員・運営の承継論点も参考になります。本稿は法人制度の横断設計を扱うため、各サービスの人員・加算要件は指定権者の最新版へ接続します。
よくある質問|社会福祉法人の合併・事業譲渡
Q1. 社会福祉法人の理事長は法人を売却して代金を受け取れますか?
株式会社の株主が株式を売る形では受け取れません。社会福祉法人には株式・持分がなく、理事長は法人財産の所有者ではないからです。事業譲渡の対価は法人間の対象事業に関する対価として設定を検討し、法人の会計へ帰属させます。退職慰労金、個人貸付金の返済、個人所有不動産の売買・賃貸等がある場合は、承継対価と分け、契約根拠、相当性、機関決議、利益相反、特別利益供与、税務を個別確認します。
Q2. 社会福祉法人同士なら吸収合併と事業譲渡のどちらが簡単ですか?
一律には決まりません。吸収合併は権利義務を包括承継できる一方、消滅法人の全体を引き継ぐためDD範囲が広く、評議員会承認、所轄庁認可、2か月以上の債権者異議申述期間、登記等があります。事業譲渡は対象を限定できますが、資産、債務、契約、職員、利用者、指定を個別に移す負荷があります。目的、対象範囲、同意件数、財産・指定の実行性で比較します。
Q3. 事業譲渡で社会福祉事業を全て別法人へ渡せますか?
厚生労働省の2026年改訂マニュアルは、社会福祉法人が「社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人」であることから、行っている社会福祉事業の全部を譲渡することはできないと考えられる、と説明しています。形式的に一事業を残せばよいとは限らず、残存法人が実体ある社会福祉事業を継続できるかも問題になります。対象範囲を定款・事業・財産・人員・収支で示し、所轄庁と専門家へ事前確認してください。
Q4. 合併なら介護保険指定も自動で承継されますか?
法人合併の包括承継だけを根拠に、介護指定手続が不要と断定しないでください。吸収合併か新設合併か、存続法人・新法人、サービス種別、指定権者の運用により、変更、廃止、新規、届出等を確認する必要があります。指定の効力日、事業所番号、請求、口座、電子証明、人員、利用契約をサービスごとの表にし、指定権者から得た回答を記録します。
Q5. 事業譲渡なら不要な借入や訴訟を全て除外できますか?
契約上対象外と定められるものはありますが、事業継続に必要な土地建物と担保借入、契約上不可分の債務、法令上の責任、利用者に対する義務等を自由に切り離せるとは限りません。債務引受には債権者同意等が必要で、資産を移した後の譲渡法人に十分な返済原資を残す必要もあります。対象・対象外・条件付をDDし、弁護士、債権者、所轄庁へ確認します。
Q6. 職員は合併や事業譲渡を理由に全員同じ条件へ変更できますか?
できるとはいえません。合併では雇用契約・労働条件が包括承継され、承継後の不利益変更等には労働法上の要件、説明・同意、就業規則・労使手続を検討します。事業譲渡では雇用契約は当然に移らず、転籍には本人の真意による承諾が必要です。新条件を隠したまま先に退職届を集めず、賃金、勤務、勤続、退職金、社会保険等を比較できる書面を提示します。
Q7. 利用者・家族へは契約締結後に初めて説明すればよいですか?
説明時期は、秘密保持、機関決議、行政相談、契約の確度、利用者保護を踏まえて設計します。早すぎる未確定情報も、実行直前の一方的通知も避けます。事業譲渡では利用者契約が当然には移らないため、十分な説明、必要な承諾・再契約、個人情報、預り金を実行前に整える必要があります。合併でも、運営主体表示やサービス・料金に変更がある場合は説明と必要な同意・再契約を検討します。
Q8. 基本財産の建物は同じ福祉目的なら自由に無償譲渡できますか?
自由にできるとはいえません。基本財産の処分には定款・機関決議・所轄庁承認等を確認し、補助対象財産なら交付主体の財産処分手続、担保があれば債権者の手続も必要です。無償であることだけで公益性が証明されるわけではなく、譲渡法人の公的財産が毀損しないか、譲受法人の負担、対象事業の価値、補助条件を説明します。
Q9. 社会福祉連携推進法人を作れば施設や職員を一括承継できますか?
社会福祉連携推進法人の認定だけで、構成法人の施設、雇用、利用者契約、介護指定が新法人へ移るわけではありません。各構成法人は別法人として残り、法令で認められた連携業務を行います。共同採用・研修・購買・経営支援等の目的には適合し得ますが、運営主体を恒久的に一本化する必要があるなら合併・事業譲渡と別に比較します。
Q10. 事業価値は建物の簿価で決めれば所轄庁へ説明できますか?
簿価だけでは通常十分な説明になりません。簿価は会計上の残高であり、土地建物の現在価値、補助・用途・担保制約、将来修繕、事業収支、承継債務を示さないからです。資産・収益等の複数の観点を使い、対象範囲と前提を明示します。譲渡側・譲受側の双方が自法人の財産を毀損しないかを検討し、第三者評価や比較資料、機関審議を保存します。
Q11. 18か月あれば認可・指定は必ず間に合いますか?
本稿の18か月は架空の計画例で、法定・行政の標準処理期間でも、完了保証でもありません。所轄庁の事前相談・補正、基本・補助財産、債権者、金融機関、指定権者、施設数、利用者・職員数で変わります。最初に予定日を固定するのではなく、各窓口の最新手続を確認し、未充足時に延期できる契約と意思決定体制を作ります。
Q12. 所轄庁への初回相談には何を持参すべきですか?
まず、譲渡側・承継側双方の法人名、所轄庁、定款上の事業、現在の事業、検討スキーム、承継対象と残存事業、基本財産・補助対象財産、借入・担保、施設・介護指定、仮の実行希望日を一枚の事実整理表にします。確定事実、当事者の仮説、未解決事項を分け、組織図、直近計算書類、定款、財産目録、施設・指定一覧を添えると、必要な認可・承認・届出と追加資料を所轄庁が特定しやすくなります。初回相談だけで手続や可否が確定するとは限らないため、回答者、相談日、前提条件、追加確認事項を議事録に残し、指定権者や補助金交付主体への相談も並行してください。
まとめ|承継対象ではなくサービス継続から逆算する
社会福祉法人には株式・持分がないため、理事長が株式を売って代金を得る会社売却として社会福祉法人の承継を設計することはできません。法人全体を統合する吸収合併・新設合併、特定事業を個別に移す事業譲渡、法人格を残す役員承継・連携を、目的と対象範囲から比較します。
合併は権利義務を包括承継できる一方、消滅法人全体の債務・リスクを引き継ぎ、評議員会承認、所轄庁認可、官報公告・個別催告、2か月以上の債権者異議申述期間、登記等を要します。事業譲渡は対象を限定できる一方、財産、債務、契約、職員、利用者、指定を個別に移し、譲渡後も譲渡法人が実体ある社会福祉事業を継続できるかを確認します。
どちらのスキームでも、所轄庁だけを見てはいけません。介護指定、施設、基本財産、補助対象財産、福祉医療機構・金融機関、雇用、利用者契約、預り金、会計、システムを同じ基準日に束ねます。法的効果、行政手続、運用変更を一つの言葉で「承継済み」とせず、証拠と未完了一覧を使って実行を判断します。
最も大切なのは、予定日に取引を終えることではなく、その翌日も利用者が安全に介護を受け、職員が迷わず働き、残存法人と承継法人が公益的な事業を持続できることです。対価、規模、効率化は、その目的を損なわない範囲で検討します。
免責・2026年8月22日時点の更新基準
本稿は一般的な情報提供であり、法務、税務、会計、労務、社会福祉法人認可、介護保険指定、補助金、融資、登記、個人情報に関する助言ではありません。実際の合併・事業譲渡・役員承継・連携は、法人の定款、所轄庁、指定権者、事業種別、財産・補助・借入、契約、職員・利用者の事情によって結論が変わります。弁護士、公認会計士・税理士、社会保険労務士、行政書士、司法書士、所轄庁、指定権者、補助金交付主体、福祉医療機構・金融機関等へ個別に確認してください。
制度確認日は2026年8月22日です。公開前および実案件で使用する直前に、厚生労働省「合併・事業譲渡」ページの最新版マニュアル、e-Gov法令、事業譲渡等指針、所轄庁の様式・事前相談、指定権者の指定申請、補助金財産処分、福祉医療機構の融資・退職手当共済を再確認します。法改正、通知改正、自治体運用変更があれば本文と工程を更新します。
架空ケースの18か月、80床、職員72名、利用者・資産・債務・修繕等の数値は説明専用です。実在案件の期間、価値、同意率、行政結果を示さず、当センターが当該架空または実在取引を支援したとの表示でもありません。
一次資料・確認日
- 「合併・事業譲渡」、厚生労働省。2026年3月31日改訂マニュアルと事業展開ガイドラインの掲載を2026年8月22日に確認。
- 「合併・事業譲渡等マニュアル(令和8年3月31日改訂版)」、厚生労働省。法人制度、合併、事業譲渡、財産、対価、雇用、利用者、共済の記載を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉法」、e-Gov法令検索。社会福祉法人、特別利益、機関、合併、債権者、施設等の条文を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉法人制度」、厚生労働省。法人制度・情報公表の入口を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉法人の会計」、厚生労働省。社会福祉法人会計基準と会計区分を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉法人会計基準」、厚生労働省法令等データベース。計算書類の規範を2026年8月22日に確認。
- 「企業組織の再編に伴う労使関係」、厚生労働省。事業譲渡等指針と2026年1月20日改正情報を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉施設職員等退職手当共済制度マニュアル(2026年度)」、独立行政法人福祉医療機構。経営者変更・合併・事業譲渡時の手続を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉連携推進法人制度」、厚生労働省。法人間連携制度を2026年8月22日に確認。
- 「介護サービス事業者の指定申請等のウェブ入力・電子申請」、厚生労働省。指定申請の案内を2026年8月22日に確認。
- 「社会福祉施設の整備・運営」、厚生労働省。施設手続・通知への入口を2026年8月22日に確認。
- 「医療法人の合併及び分割について」、厚生労働省。社会福祉法人と医療法人の制度を混同しないため、2026年8月22日に確認。

